自宅での学習習慣と生活習慣を形成する

 2020年に小学校から順次全面実施となる新しい学習指導要領は、子どもたちが、課題の発見と解決に向けた「主体的・対話的で深い学び」、いわゆるアクティブ・ラーニングに取り組むことを求めている。つまり、解決策が未知の問題に対して、仲間と協働して解決に向けて思考力と実行力を発揮することが、21世紀に必要な学びの姿になるのである。

 しかし、不登校やいじめへの対応、学力や情緒に課題のある子への支援と配慮、新型コロナウィルスの感染防止策の実施など、今、学校は多くの難問を抱えて多忙化の中で四苦八苦している。アクティブ・ラーニングが必要とする深くて周到な教材研究や学習評価の工夫にまでは、とうてい精神的にも時間的にも配慮が行き届かない状況にあるといえる。

 そのような困難な状況であるからこそ、発想を転換し、アクティブ・ラーニングを実施可能にする新しい授業のアイデアを生み出して、先手必勝の原理で積極的に取り組んでいけばよいと考えてはどうだろうか。

 そこで筆者らの研究グループでは、「その鍵は家庭学習にあり!」ととらえて、学校でのアクティブ・ラーニングを活性化するための家庭学習のあり方を開発し、実践を通してそのエッセンスを提案することにした。キーワードは、家庭学習力という新しい学力の考え方と、家庭学習力アンケートを用いた子どものセルフ・アセスメントという自己評価・自己改善の方法である。

 筆者は、今から8年ほど前に、ベネッセ教育研究開発センター(現ベネッセ教育総合研究所)との共同研究により、『学力向上のための基本調査2008』(2009年発行)という研究成果報告書をまとめ、その中でこのような新しい家庭学習と学校での改善のあり方を提案した。

 そこで構成した概念や評価研究ツールを、子どものための実用的なセルフ・アセスメントツールとして作り直すとともに、それを用いた家庭学習力アップ大作戦という新しい授業方法を開発してきた。それは、子どもたちが自分の家庭学習を仲間とともにエビデンス(アンケート結果)に基づいて、主体的・対話的に改善していく、家庭学習改善のためのアクティブ・ラーニングなのである。

 この家庭学習アップ大作戦は、R-PDCAサイクルモデルに基づいた家庭学習改善のための自己マネジメント学習になっている。やや難しそうな用語が並んでいるが、実際には、子どもたちが生き生きと、仲間と知恵と元気を共有しながら、意欲的に宿題や自学ノートに取り組みだしている様子に感動していただけるだろう。

 そして、新型コロナウィルスの感染拡大による自宅学習が求められている今日こそ、子どもたちが主体的・対話的に自身の家庭学習力を継続的に育成し続けて、学校でも家庭でも自律的に学び続けるための、家庭での学習習慣と生活習慣を、ここで紹介するアンケート・システムを活用して、学校と家庭が協力して育てていって欲しい。

家庭が子どもの学習阻害要因になる

 今日の家庭学習にはまだ改善の余地があるといえる。「宿題には取り組んでも、『自ら学ぶ家庭学習』はしない」という子どもが多数である状況を変えなくてはならない。そうでなければ、アクティブ・ラーニングも学力向上も大きな成果は望めないだろう。
 
 また、新型コロナウィルスの感染防止のための自宅学習の重要性が高まっている中で、学校から出された宿題や課題を、保護者から叱られながら仕方なくやり過ごしているだけでは、生涯学習力の一環としての家庭学習力を身につけることはできない。

 ここで少し家庭学習の特殊性を考えてみると、そこに子どもの自己マネジメント力、つまり、自らを律して自己の生活や学習を改善する力が大変重要になっていることが見えてくる。その特殊性とは、次の5点である。

[子どもの家庭学習の特殊性]

① 教師という学習のペースメーカーがいない状況で、家庭では子ども自らがペースメーカーとなって自学を進めなければならない。

② テレビやテレビゲーム、マンガやスマートフォンという学習阻害要因が多い、誘惑にあふれた環境の中で自律的・主体的に学ぶことが求められる。

③ 家庭学習の質と量が、家庭の教育力によって影響を受けやすい状況の中で、自ら進んで自覚と自己責任を持って学ぶ必要がある。

④ 宿題や学校の予習・復習だけでなく、自ら進んで読書をしたり、インターネットで調べ学習をしたり、あるいは家庭で買い求めた参考書や問題集を用いた学習をしたり、学校とつないだオンライン学習をするなど、自主的・自律的な学習をより多くすることが学力向上を支えている。

⑤ 自分にとって調子が出る時間帯や、学びやすい方法、苦手な教科や得意な分野など、自己の特性に応じた手作りの家庭学習法を確立する必要がある。

 このような5つの特殊性を考えてみると、実は、子どもの家庭学習とは、教師にとって見えにくいブラックボックスであるだけでなく、子どもにとっては、「やらなくてもすむもの」「誘惑に負けてやらずじまいになるもの」、そして「やれといわれるとよけいにいやになるもの」や、場合によっては「保護者や兄弟姉妹がかえって非協力者や妨害者になりやすいもの」なのである。

 こうした学力向上にとって劣悪な環境になりやすい家庭という場を、これからはアクティブ・ラーニングの基盤にしようとするわけであるから、最も大切な学習原理は、子どもを「自ら学び自ら向上する自覚と責任をもつ学習者」に育てることに他ならない。いい方を変えれば、家庭学習のアクティブ化によってこそ、学校でのアクティブ・ラーニングが確かに成立するといえるのである。

子どもに自己マネジメント力を育てる

 自己マネジメント力とは、「子どもが自分の学習と生活の実態を自覚して、目標を設定したり、進捗状況を記録したりして、自己学習を改善していく力」である。「教師」というペースメーカーがいない環境で、自分で学習計画を作成・実行し、振り返ったり、学習姿勢や生活態度などの自己点検を繰り返したりすることで、少しずつ自分をマネジメントして成長していく力が育つ。こうした力は生涯にわたる宝になる。つまり、家庭学習の自己点検を日常的に子どもたちに行わせることを提案したい。

 また、自己マネジメント力は、R-PDCAサイクルを通して自己の学習や生活のあり方を自律的に改善する力であるといえる。つまり、自分の学習と生活の実態を自覚して、その反省にたった改善プランを作成・実行することができたとき、初めて自己マネジメント力が身に付いたといえるのである。

 言い換えれば、自己マネジメント力は、「子どものR-PDCA実践力」ということもできる。これまで大人が会社の経営や学校の運営を改善する手法として使われてきたR-PDCAサイクルモデルを、子どもの自己改善の手法として子どもが使いこなす力を育てることを提案したいのである。

 ただし、自己マネジメント力は、子どもに任せているだけでは育たない。

 自己マネジメント力を育成するときには、発達段階に応じた指導方法に留意することが大切である。指導が丁寧なのは良いことであるが、お膳立てしすぎると主体性が育ちにくいことがある。

 たとえば低学年は、先生に促されて取り組むうちに自分のものとして獲得していく時期であるから、自己マネジメント力よりも、「宿題をきちんとやる」「字は丁寧に書く」「姿勢を正しく」「発表は大きな声で」といった基本的な学習姿勢の育成に努めるとよい。

 中学年から、自己マネジメント力の指導を徐々に取り入れたい。3年生は計画性や自分を振り返る力が十分に育っていないので、保護者の協力を得ながら進めるとよい。

 高学年になると、自己点検は大切だと理解しながらもそれを面倒だと感じる子どもが現れる。したがって、こうした活動を純粋に「楽しい」と感じる中学年から始めることで、子どもは自己点検が将来必要な力であることをよく理解して前向きに取り組めるようになるだろう。

 更に進めて、中学校でも取り組みを共有したい。小中連携のねらいの1つに、9カ年を通して家庭学習力を育てることをあげたい。

 家庭こそが子どもたちが自己の学習と生活を自由にそして個性的に作り出し、実践することができる唯一の場だからである。つまり、「自己の学習と生活をデザインする力」をすべての子どもたちが身に付けられるようにすることが、これからの学校教育の使命であると考える。もちろんその課題の達成のためには、保護者の協力が欠かせない。

 ここで「デザイン」という用語を用いたのは、自己マネジメント力を身に付けた子どもたちに、自己の家庭学習を自律的・主体的・個性的に創造していって欲しいという願いがあるからに他ならない。「自分の人生設計のコンセプトと将来の夢は何にしよう?」「そのためには、こんな勉強の仕方が自分には合っているな」「もっとテレビ視聴の時間を減らして読書に回せないだろうか」「学校の宿題以外にもこんな勉強がしたい」「教科書に出てきた作家の他の作品も読んでみよう」といったことを自由に構想できるのは、まさに家庭なのである。こうした真に「自分らしくなれる場」として、そして「自分を自分らしく創る場」として、家庭での学習と生活を意図的・計画的に創造する力が、自己マネジメント力なのである。

 今日の新型コロナウィルスの感染防止のためにますますその重要性が高まっている、家庭での自主学習や学校とのオンライン授業に加え、このような学習に取り組みにくい状況である時代だからこそ、発想を転換して,今こそ、家庭学習力を子どもたちに育てることが学校教育の新たな使命になったといってよいだろう。

 ではもう少し具体的に、家庭で子どもが動かすR-PDCAサイクルの特徴について見てみよう(表1)。

 表のようにして、R-PDCAという5つの段階で子どもが自らの学習と生活を改善して行く力を、自己マネジメント力と呼び、その育成の方法を考えることが今こそ必要になっている。その力があれば、「やらされる家庭学習」が「自ら進んで取り組む家庭学習」へと転換し、子どもが家庭学習に自ら取り組み自ら改善していくようになっていく。

 このような子どもの自律性や主体性を育てる教育のあり方は、21世紀における生涯学習社会において、ますます重要になっている。

表1 家庭学習におけるR-PDCAサイクルの特徴

段階

基本的特徴

具体的活動例

R(Research)診断

自分の学習と生活のあり方に関する長所と短所をふまえて、その成果と課題についてデータに基づいて客観的にとらえる。

○「学習・生活振り返りチェックシート」を用いて自己診断する

○「家庭で過ごした時間の円グラフ」を作成して時間配分を自己診断する

○家庭での学習や生活の問題点や課題を整理して書き出す

P(Plan)  計画

家庭での学習と生活のあり方を改善するための計画を、項目別に時間配分を明確にして作成する。

○改善ポイントを目標にして書き出し、スローガンにして部屋に貼り出す

○学習改善計画表を作成する

○生活改善計画表を作成する

D(Do)   実施

計画実施期間として二週間程度をかけて、作成した改善計画を実施してみると同時に、その記録を付けておく。

○計画実施表に記録を付けていく

○毎日、実行状況のミニ感想文を書く

○必要に応じて、実施記録を保護者や教師に見せてアドバイスをもらう

C(Check)  評価

これまで行ってきた診断・計画・実施のあり方を振り返って、実施状況の記録をもとにしながら実施期間内の改善の成果と課題について整理する。

○「改善評価シート」に記入する

○成果と課題を分けて整理する

○課題については、その原因を考えてまとめる

○評価結果を整理してレポートを書く

A(Action) 改善

以上の評価結果をもとにして、更なる改善計画を立てて実行する。時間的に実行ができない場合には、次年度に引き継ぐ。

○更なる改善計画を立てて実行する

○「改善計画表」を作成する

○改善のための自己目標を明確化する

○自分なりの個性的な内容や方法を組み入れるように配慮する

 





子どもの家庭学習力を育てる

 子どもの家庭学習力とは、「家庭での規則正しい健康な生活習慣の基盤の上に、子どもが家庭での宿題、予習・復習、そして自主的学習等を計画的かつ自律的に行うために必要な能力や態度」のことである。

 まず、このような子どもの実践力を育てるために必要な、大きな実践指針の一つは、学級の仲間の力を借りて、一人一人の家庭学習力を伸ばし合うことである。

 家庭学習力は一人で伸ばすことはできない。ついつい怠けてしまったり、スマホやゲームに誘惑されたりしてしまうからである。しかし、仲間からの励ましや応援、一緒にやろうといった連帯感があれば、やっていけるのである。

 したがって、これから紹介する家庭学習力アップ大作戦というような、学級の友だち同士が力を合わせて、家庭学習改善運動を進めていくように仕組むことが大切なのである。もちろん、家庭でも保護者の協力の下、家庭学習力アンケートを毎月つけていき、その結果をレーダーチャートで可視化し、継続的な取組を通して、自己の成長をふり返って、自身の家庭学習と生活習慣を向上させることができる。


家庭学習力アンケートで自己を診断評価する

 家庭学習力をアップさせるためには、子どもたちにその項目を可視化するとともに、簡単に付けられるアンケート用紙を作り、自分の家庭学習の状況を定期的に見つめさせることが効果的である。

 家庭学習力の能力モデルは、次のような領域と項目により定義される。

【家庭学習力モデルの領域と項目】

1 学習習慣

 ・宿題、習慣、復習

2 生活習慣

 ・時間、睡眠、食事

3 自律心

 ・準備、整理、自律

4 自己学習力

 ・計画、目標、教えあい

5 自己コントロール力

 ・苦手、集中、克服

6 自己マネジメント力

 ・記録、両立、改善

7 生涯学習力

 ・社会、辞書、読書

8 自己成長力

 ・伸長、得意、夢

 このモデルに基づき、家庭学習力アンケートを用いて、「総合的な学習の時間」の10時間程を使って家庭学習の振り返りと改善に取り組むことを提案したい。

 子どもたちが回答したアンケートの結果は、エクセルのプログラムでレーダーチャート(家庭学習通知表)にして子どもたちに可視化し、返却する。その際に、グループ活動による相互評価を取り入れると、自分を見つめ直したり、友だちと認め合ったりする機会になる。

 家庭学習力アンケートは、現在、小学校中学年版、小学校高学年版、そして中学校版を用意している。それぞれに、エクセルで作成したレーダーチャート作成ソフトがあるので活用して欲しい。

 


家庭学習力レーダーチャートで現状を可視化し自己改善につなげる

 子どもたちが家庭学習力アンケートを付けて、各項目の点数を教師や保護者がエクセルのプログラムに記入していくと、すぐにレーダーチャートが描画される。資料にあるように、左側のレーダーチャートはそのクラスの領域毎の平均値を示している。右側のレーダーチャートは、アンケートに回答した自分の結果を表している。そして、カラー印刷することによって、それぞれのレーダーチャートに2回分の結果が色別の実線で表されるようになっている。

 不思議なことに、子どもたちは自分でアンケートに回答したことを覚えているにもかかわらず、学級力レーダーチャート票をもらうときはどきどきするようである。例えば、小さいレーダーチャートになった子どもたちは恥ずかしそうにしたり、逆に笑いながら友だちに見せ回ったりすることが多い。

 学校で実施する場合には。どんな形状になっているか、伸びがあるか小さくなっているかなどをとても気にしながら近くの友だちと一喜一憂しながら見せ合っている。

 学校ではしっかりと特別活動や総合的な学習の時間を確保して、子どもたちが家庭学習力レーダーチャートから自分と学級の家庭学習力の成果と課題を診断し、次の新たな課題をみつけたり、具体的な改善方法を共有したり宣言したりすることが大切である。

 家庭では、保護者の方はあくまでも子どもたちのサポーターといった役回りで、子どもたちの自己評価と自己改善を応援してみよう。

 その際の指導上の留意点を列記しておこう。

【家庭学習力レーダーチャート診断の留意点】

① レーダーチャートの大きさや得点を友だちと比較しない

② 大切なことは自分の中の伸びであることを確認する

③ 伸びたところはお祝いをし、小さくなったところは反省する

④ 次にどの項目を伸ばし、どのような方法で取り組むかを考える

⑤ 友だちのよさから学び、具体的な改善方法を取り入れる

⑥ 自分が成功したと思う方法を友だちに紹介し役立ててもらう

⑦ 自分に合った家庭学習の方法を、データを参考にして作り出す


参考文献と資料ダウンロード

 上記の家庭学習力アンケートとレーダーチャート作成ソフトの無料ダウンロード・サイトは、以下のURLにあります。
 
 また、詳しい実践事例については、本サイトの書籍紹介のページに挙げた、下記文献を参照してください。
 
田中博之編著『アクティブ・ラーニングが絶対成功する小中学校の家庭学習アイデアブック』明治図書出版、2017年